電報マニュアル

美しい日本語塾|季節と自然の魅力を表す四季折々の言葉の話

日本には昔から、四季折々の季節や自然の魅力を表す美しい日本語が数多く存在します。時候の挨拶や祝電などでメッセージを送るとき、その季節に合った味わい深い言葉を添えると、表現に奥行きが生まれるでしょう。この機会に古くから伝えられてきた美しい日本語を知り、手紙や電報を送るときに含めてみてはいかがでしょうか。
今回は季節ごとの美しい日本語についてご紹介します。

四季を表す表現が豊かな日本語

四季を表す表現が豊かな日本語四季がある日本は、気候の変化に伴い自然も繊細に変化していきます。四季を表す日本語の魅力についてお伝えします。

日本語は季節のうつろいを表す言葉が豊かで、それは古典からも感じ取れます。
有名な清少納言の「枕草子」の冒頭では、「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」とあり、山の稜線の明るさや、紫がかった雲の様子に春の風情を感じる、と記されています。
また、季節のうつろいとともに変わっていく気候、風、植物や動物などの自然を表す表現も豊かです。三十六歌仙の一人である藤原敏行は、「秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」と歌っています。まだはっきりとした秋の訪れが見えるわけではないけれど、風から新しい季節の到来を感じられるという歌です。
どちらの作品からも、日本人が四季折々の景観や自然の美しさを堪能し、愛でながら大切に言葉を紡いできたことがわかります。

言葉は日々変化していますが、昔から伝わる言葉の魅力は今でも色あせません。知人や友人に言葉を送るときに美しい日本語を交えると、一層季節の趣を届けられるでしょう。

春を表す美しい日本語

春を表す美しい日本語入学や就職など、新しい季節のスタートともいえる春は、美しい桜や梅なども見ごろです。春を表す美しい日本語の意味と例文をご紹介します

春の言葉

・あけぼの
「あけ」は夜明け、「ぼの」は「ほのぼのとした」という意味合いを表します。二つが合わさることで、赤や紫に淡く染まる、ほのぼのとした夜明けを表します。春の夜明けを表す意味で「春曙(しゅんしょ)」とも言われます。

例文:あけぼのの色がほのかに空を染める今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

・山笑う(やまわらう)
春は山に生える草木が芽吹いて全体が明るい様子になり、山がまるで笑っているかのように見える、という意味です。春を表す俳句や短歌、手紙の時候の挨拶などによく使われます。

例文:山笑う季節となってきましたが、元気でお過ごしでしょうか。

・春たけなわ(はるたけなわ)
春と、「真っ盛り」「真っ最中」という意味のたけなわを組み合わせた言葉です。「もっとも春らしい時季」という意味で、時候の挨拶でよく使われます。3月中旬~4月上旬頃に使うと良いでしょう。

例文:春たけなわのこの頃、合格の知らせに胸を高鳴らせています。

・陽炎(かげろう)
地面や野原から気が立ちのぼり、景色がゆらめいて見えるさま、という意味です。陽炎は春だけの現象ではないものの、春の暖かさを感じさせるという理由で、春の季語として使われています。

例文:野に陽炎が燃え立つ季節がやってきました。

・春愁(しゅんしゅう)
春の華やかな季節にふと感じるもの悲しさ、わびしさ、哀愁を表した言葉です。主に、4月の時候の挨拶に用いられます。四字熟語に「春愁秋思」という言葉があり、これは春に感じる哀愁と、秋に感じるもの悲しさの両方を表した言葉です。

例文:春愁の候 行く春が惜しまれますが、いかがお過ごしでしょうか。

・霞の衣(かすみのころも)
春に霧が立ち込め、霞みがかった様子を、まるで春が衣をまとっているように見える、と表した言葉です。平安時代末期の歌集「山家集 上巻」では、「山桜 霞の衣厚く着て この春だにも 風つつまなむ」と歌われています。

例文:裏山の木々は、まるで霞の衣をまとっているようです。

・花筏(はないかだ)
桜の花びらが水面に散り、まとまって筏のようにゆったり流れていく様子を表します。桜が散ったことがわかり、春の終わりを感じさせます。春の季語として俳句にも使われる言葉です。

例文:水面に漂う花筏が趣深い季節になってまいりました。

・忍冬(すいかずら)
常緑木である忍冬は、初夏から夏にかけて、葉っぱの間から香りの良い白い花が咲きます。冬の寒さを忍び、春に花を咲かせることから、この名前が付きました。初夏や夏の訪れを表す言葉としても使われます。

例文:忍冬に 眼薬を売る 裏家かな(正岡子規)

春の言の葉物語「雪洞(ぼんぼり)」

「あかりをつけましょ ぼんぼりに~」で有名なひな祭りの歌に登場する「ぼんぼり」。お内裏様とお雛様の左右脇に置いている灯のことで、漢字で「雪洞」と書きます。もともとは囲炉裏(いろり)の炭を長持ちさせるためにかぶせていた覆いを指し、かつては音読みで「せっとう」と呼ばれていました。白い紙でつくられ、穴が開いていたため、雪の洞窟に見立てられたことから「雪洞」と名付けられました。「せっとう」でロウソクの灯りなどを覆うと、灯りがぼんやり見えたことから、ぼんやり、ほのか、という意味を持つ「ぼんぼり」と言われるようになったとされています。

夏を表す美しい日本語

夏を表す美しい日本語夏は花火大会や海水浴などのイベントも多い季節。夏が始まるとワクワクしますが、夏の終わりにはどこかもの寂しい心地になります。ここでは、古くから使われてきた夏を感じる日本語をご紹介します。

夏の言葉

・風待月(かぜまちづき・かざまちづき)
6月を表す異称で、暑い夏の季節が近づいてくるため、風が吹くのが待ち遠しい、という意味で使われます。6月は一般的には「水無月(みなづき)」と呼ばれていますが、蝉羽月(せみのはづき)、涼暮月(すずくれつき)、夏越月(なごしのつき)など、風流な異称で呼ばれることもあります。

例文:風待月に入り、初夏の陽気を感じる季節となりました。

・忘れ水(わすれみず)
茂みなど人の目につかない場所を、忘れられたかのように流れる水です。夏になると、川辺の草木が生い茂り、これまで見えていた川の水が、草木によって見えなくなることから、夏の季節を表す言葉として使われます。俳句にも多く用いられます。

例文:菜の花や 淀も桂も 忘れ水(池西 言水)

・蓮華(れんげ)
夏に、水面に大輪の花を咲かせる蓮の花のことです。「泥より出でて、泥に染まらず」と言われる蓮華は、池の底の泥に根を張り、水面に芽を出し、夏の早朝に見事な花を咲かせます。蓮は仏教と関わりが深く、お寺の境内でしばしば見かけられます。
春に咲くレンゲソウは蓮に形が似ていることから名付けられ、略してレンゲと呼ばれることがありますが、別の花です。

例文:蓮華の咲き誇るこの頃、いかがお過ごしでしょうか。

・炎帝(えんてい)
もとは中国の言葉で、「夏をつかさどる」神様という意味を持っています。中国では三皇五帝のひとりとして、農業や医療などを教えたとされる炎帝神農(えんていしんのう)という神がいると伝えられています。日本でも、灼熱の暑い夏を表す言葉として使われます。

例文:炎帝に負けず、家族一同元気に過ごしております。

・油照り(あぶらでり)
カラっとした暑さというより、蒸し暑く、じんわりとした夏の天候を表した言葉です。油のような汗がにじみ出てくることなどから、「油」が頭に用いられています。

例文:うだるような油照りの季節ですが、体調など崩されていませんでしょうか。

・蝉時雨(せみしぐれ)
夏になり、たくさんの蝉がいっせいに鳴く音が、まるで時雨(秋~冬の時季に、降ったりやんだりするにわか雨のこと)のように聞こえることを表した言葉です。本格的な夏を迎える際の時候の挨拶によく用いられます。

例文:蝉時雨の降り注ぐ季節となってまいりました。

・ひぐらし
漢字では「蜩」と書き、蝉の一種です。夏から秋にかけて明け方や夕方にカナカナと鳴くことから、夏の終わりを表す言葉として使われます。日暮れどきに泣くことから、「ひぐらし」という名が付き、「日暮」とも書きます。残夏の挨拶などに使われます。

例文:ひぐらしの鳴く頃、いかがお過ごしでしょうか。

・鬼灯(ほおずき)
初夏の季節に花を咲かせ、赤みがかったオレンジ色の実を付けるナス科ホオズキ属の多年草です。実を付けるのは8月頃で、夏から秋に向かっていくことから、初秋を表す言葉としても使われます。古くからある言葉で、古事記にも登場します。

例文:ほおずきも赤く染まり、暑い盛りですが、お元気に過ごされていますでしょうか。

●夏の言の葉物語「空蝉(うつせみ)」
空蝉とは、もともと蝉の抜け殻のことです。現世やこの世に生きている人のことを「現身(うつしおみ)」といい、「うつしおみ」が、うつそみ、うつせみと、呼び方が変化していきました。蝉は、幼虫として土の中で何年も過ごし、脱皮し、成虫になると、地上ではわずか2週間~1カ月しか生きられません。その間、オスは子孫を残すため、メスに存在を知らせようと泣き続けます。そのような宿命を持つ蝉の抜け殻を、この世の儚さと重ねた比喩表現です。
万葉集でも確認できたり、源氏物語では、光源氏の恋の相手に空蝉という女性が登場したりと、古くから使われてきた言葉です。

秋を表す美しい日本語

秋を表す美しい日本語紅葉狩りや読書、スポーツなどを楽しめる秋は、少しずつ涼しくなり、気候の変化を感じやすい季節です。続いて、秋を表す美しい日本語をご紹介します。

秋の言葉

・色取月(いろどりづき)
9月の異称です。秋になると、だんだん木の葉が色づいてくることから、このように呼ばれています。そのほか、9月は稲を刈り取る季節であることから「稲刈月(いねかりづき)」や「小田刈月(おだかりづき)」、紅葉が見られるため「紅葉月」という異称で呼ばれることがあります。

例文:川沿いの木の葉が色づき始め、まさに色取月です。

・あきつ
昆虫のトンボを指します。漢字では「秋津」「蜻蛉」などと書き表し、昔は「あきづ」と読まれていました。そもそも「あきつ」は、「秋のもの」という意味があります。秋になるとトンボが現れることから、「あきつ」という言葉がトンボを表すようになりました。

例文:あきつが群れをなして飛んでいます。

・春秋(しゅんじゅう)
文字どおり、春と秋を指しています。季節の経過を表し、「年月」や「一年」という意味もあり、歳月が経つことを「春秋を経る」と表現します。
春と秋のどちらが優れているかという論争を「春秋の争い」ともいいます。この言葉は古事記にも登場しており、日本人は春と秋は優劣つけがたいという美意識を持っていたことがわかります。

例文:大学を卒業し、いたずらに春秋を重ねてきました。

・竹の春(たけのはる)
秋になると、竹が鮮やかな緑色になることから、秋を表す季語として俳句や時候の挨拶などに使われます。通常の植物や樹木は、春の時季に花が咲き、秋の時季に葉を落としますが、竹の場合は逆であることからこのように呼ばれます。

例文:おのが葉に 月おぼろなり 竹の春(与謝蕪村)

・野分(のわき)
秋の強い風が、野を分けるようにして吹くことを表す秋の季語です。時季は9月上旬頃を表し、台風に伴う暴風がこのように表現されます。「源氏物語」にも、野分という物語が記されています。

例文:野分だつ時季になってまいりました。

・木枯らし(こがらし)
秋の終わりから初冬にかけて、木を吹き荒らし、木の葉を落とすほどに冷たく吹く強い風です。穏やかな気候から寒い冬に変わる時季に、時候の挨拶でよく使われる言葉です。

例文:木枯らしが吹きすさび、寒さを感じる季節になりました。

・百果の宗(ひゃっかのそう)
中国の言葉で、もともとは秋の果物である梨を指します。「宗」は「王」と同じ意味を持ち、果実の中でも優れている、という意味を表しています。梨は「無し」と音が同じのため、「有りの実」とも呼ばれていました。

例文:今年の梨は甘さと酸っぱさのバランスがちょうど良く、さすがは百果の宗です。

秋の言の葉物語「お彼岸(おひがん)」

日本では毎年3月と9月にお彼岸があり、法要を行ったり墓参りに出向いたりして先祖や故人を供養します。祝日である「春分の日」「秋分の日」は、お彼岸の時季の真ん中にあたる中日(ちゅうにち)です。彼岸とは、死んだ人が渡って行く向こう側の世界を指します。一方、現世のことは此岸(しがん)と呼びます。彼岸供養は、日本のみで行われる風習です。
なぜ、お彼岸が秋分の日、春分の日に行われるかというと、昔は、魂は極楽がある西のほうに行くと思われていたからです。秋分の日、春分の日は太陽が真西に沈むため、阿弥陀如来が住む西方浄土のほうへ念仏を唱えることにより、故人が仏の世界へ行けると信じられていました。そのような由来から、先祖に思いを馳せる日になったとされています。

冬を表す美しい日本語

冬を表す美しい日本語寒さ極まる冬は、クリスマスや新年を迎える季節でもあり、知人・友人に挨拶を送る機会も多いでしょう。最後に、冬を表す美しい日本語をご紹介します。

冬の言葉

・若水(わかみず)
元日に初めて汲む水のことです。若水を飲むことでその年の邪気を払えるとされており、地域によって今も若水で口をすすぐ風習が残っています。新年を表す季語の一つで、俳句などに用いられることが多いです。「福水」とも呼ばれます。

例文:若水や 人の声する 垣の闇(室生犀星)

・風冴ゆ(かぜさゆ)
冬に冷たく澄んだ風が吹き、まるで身にしみるようである、という意味を表す言葉です。冬の季語として、「風冴ゆる」と、俳句でも詠まれます。本格的な寒さの到来を表す意味で、手紙の挨拶でも使われています。

例文:すっかり風冴ゆる季節となりました。

・三寒四温(さんかんしおん)
冬の7日間のうち、寒い日が3日、少し温かい日が4日続き、寒暖の差が大きい日々のことを表します。もともとは中国北東部や朝鮮半島などで使われていた言葉で、日本では春の訪れが近づきながらもまだ寒い日が続くという意味で、冬の終わり頃に使います。

例文:三寒四温の候、少しずつ春めいてまいりました。

・小春日和(こはるびより)
秋の終わりから冬の始まりにかけて訪れる、穏やかな天気のことを言います。秋から冬へと変わっていく時季は過ごしやすいことから、本格的な寒さが訪れる前の11~12月頃に使われる言葉です。春に使うイメージがある言葉なので、使う時季には留意しましょう。

例文:小春日和のうららかな日々が続いておりますが、お元気でいらっしゃいますか。

・弱冠(じゃっかん)
日本では1月初旬に各地で成人式が行われます。「弱冠」という言葉は、もとは中国で男性が20歳であることを指した言葉です。中国では男性が成人を迎えると、髪型や服装を整え、冠を被って元服式(日本でいう成人式)を行うという歴史がありました。現在では「弱冠17歳」など、年齢が若いという意味でも使われています。同じ読み方で「若干」という言葉がありますが、これは「いくらか」という意味を指します。

例文:弱冠の頃、成人になったことを祖父が大変喜んでくれたことを覚えています。

・楪(ゆずりは)
昔から日本では、お正月の飾りとして鏡餅に楪を使用しています。若い葉が出てくると古い葉が落ちることから「譲る葉」とされ、「ゆずりは」と名付けられたと言われています。祝木として新年のおめでたさを祝う言葉として使われたり、新たな年になったことを表す俳句の季語として使われたりします。

例文:ゆづり葉や 縄結ぶ代の むかし草(正岡子規)

・東風(こち)
冬の寒さが緩むと、太平洋側から東寄りの風が吹きます。春の訪れを告げる風、という意味で使われます。まだ寒さは残るものの、春の訪れを予感させる季語としても使われます。

例文:東風吹く季節となり、春の訪れが近づいてまいりました。

・春一番(はるいちばん)
毎年2月から3月中旬の、立春から春分の時季にかけて吹く南寄りの強い風のことです。冬が終わり、春がいよいよ到来するというときに使われます。かつては、漁師が春に初めて吹く強い風を警戒する際に用いられていました。

例文:春一番が吹き、待ちに待った春がやってきますね。

冬の言の葉物語「風花(かざはな)」

風花とは、小雪を指します。雪が風に乗り、花のように舞う様子から、風花と呼ばれるようになりました。晴天の空から小雪が舞うさまを表しており、北国では「冬が訪れる前触れ」とされています。日本語ではもともと、すすきが風になびく様子を、人を招いている様子に見立てて「花すすき」と呼ぶなど、しばしば美しいものを花に例えます。万葉集でも、散る雪のことを花と表現していたことが確認されています。

例:風花が舞う季節、お変わりなくお過ごしでしょうか。

四季折々の趣を、美しい日本語で表現しよう

四季折々の趣を、美しい日本語で表現しよう日本の四季の素晴らしさを言葉で表せるようになれれば、季節をより堪能できるでしょう。美しい日本語は、古典や近代小説などにもよく登場しているので、もっと知りたい人は目を通してみてはいかがでしょうか。美しい日本語の多彩な表現を知り、日本の四季や自然の奥深さを感じながら、趣ある言葉を使ってみましょう。